不動産売買の現場で仕事をしていると、耳を疑うような話を聞くことがよくあります。記憶に残っている一つの例をお話させてください。
とある大手仲介会社での出来事
私が大手の不動産仲介会社で法人営業を担当していた時の話です。ある日、同僚と茨城のお客様を一緒に訪問することになりました。私も彼も、転職してその会社に来ましたが、私はメーカーからの転職で、彼は別の不動産仲介会社からの転職でした。
電車で片道2時間ほどの道中で、どうして転職してきたのか、という話になったところ、彼がこんな話を始めました。
「ある時、気の弱そうな年配の女性が、僕のいた店舗に来店しました。一人暮らしで家が広すぎるからと、自宅の売却の相談でした。売却に不安を感じているようだったので、その日は一般的な話にとどめて、後日査定に伺うことにしました。
お客様が帰られた後、このことを店長に報告したら、『何をやってるんだ!』と怒られて。その後、店長と二人でそのお客様の家を訪問しました。それで・・・」
一旦言葉を切って少し間を置くと、言いにくそうに続けました。
「その日のうちに、不動産業者に売らせちゃったんです。当日に買い手が見つかるくらいの安い値段です。本当に嫌な思い出で、心の傷になりました。今でも時々夢に見ますよ。」
この話に私は非常に驚きました。なぜなら、彼の前職は、業界で首位を争う財閥系大手の会社だったからです。
メーカーから不動産業界に転職してきた私は、無邪気に、大手の会社は、しっかりとお客様のことを考えた仕事をしていると思い込んでいました。
数年後、経験を積むために個人営業に異動し、彼が言っていたことが本当だと分かりました。彼が勤めていた会社は業界で1・2位を争う大手でありながら、モラルの低さで有名でしたし、そこまで酷い話でなくとも、似たようなことは他の会社でも行われていたからです。
誤解の内容に説明をさせていただくと、不動産会社の多くの営業担当者は、真面目に、誠実に仕事をしています。
しかし、不動産業界では、「数字(=営業成績)が人格」と言われるほど店舗・担当ごとに営業成績が非常に強く求められるのが一般的です。そのような文化・雰囲気の中では、多くの会社・担当者が、無意識・無自覚にお客様よりも自社や自分の都合を優先してしまう傾向がでてきます。
例えば、大手でも、売主様から売却の依頼を受けた仲介会社が、売主様ではなく自社に有利な販売方法や買主を選定することは日常的に行われています。
不動産売却の価格は一つには決まらない
不動産の売却では、成功した場合と失敗した場合で、成約価格におよそ30~40%の差がつきます。
例えば2,000万円の価値の不動産であれば、1,600万円で売れることもあれば、2,400万円で売れることもありえます。不動産会社にとっては、どちらの金額も「普通の売却」の範囲です。
これだけの金額差があっても同じ「普通の売却」として扱われる理由は、不動産のマーケットが曖昧で分かりにくいためです。本当の価値は分からないので、不動産会社の担当者は安い価格を正当化することができます。
この結果、売主様が自覚がないままにご自分の不動産を安く手放す決断をしてしまうことが多く起こっています。
不動産の売却は、正しい方法で、きちんと手を掛ければ、高く売却できる可能性を高めることができます。逆に、間違った方法をとったり、手を抜いてしまうと、やはり成約価格は下がります。
安易に売却先を決めてしまったり、不動産会社の担当者の言うままに価格や販売方法を決めてしまわないように、ご注意いただければと思います。